山形刑事の妖怪退治三　～鎌鼬の怪～

山形「うむ、監視カメラには通りまでは映っていないが、山内によればこの時間帯でもいくらかの往来はあったようだが、はっきりとは覚えていないとのことだ。なにせ衝撃的な現場を目の当たりにしているからな。だが、少なくとも首が吹っ飛んだ瞬間にコンビニ前を通り過ぎた車などは存在しないようだ」 [編集済]

山形「うむ。図右の電柱の足場ボルトの一本、つまり作業用に飛びでているボルト及び柱自体に傷があった。それに血痕もな」

山形「この時間帯、コンビニにいたのは山内だけのようだ。近隣住民の目撃証言もない」

山形「首の切断面はピアノ線等の金属線によってできたものである可能性が高いという検視結果が出た。電柱に残る傷もピアノ線の類によるもののようだ。ハウダニット、如何にして行ったかはおおよそ掴めたな」

山形「うむ。犯行方法はわかったが、現状では極論自動車さえ持っていれば誰でも可能だったとも言える。被害者の関係者に話を聞いて回ったが、とても恨まれるような人種ではなかったようだ。コンビニのアルバイトでしかない山内でさえ、常連の三好を手放しでいい人だと言っている。………或いはそういう人柄を嫌うやつがいるのかもしれんが」

山形「職場の人間に尋ねてみたが、特に不審なことはなかったそうだ」　山内「そーっすね、変なことは言ってなかったっすね。むしろ最近は「上手くいってるよー」って言ってましたからね」

山内「うちに来るときは『いつも』酒が入ってるからあんまりはっきりはしないんだけど、部下の若い子がやっと懐いてきてくれたとかなんとか言ってたかな」

山形「うむ、かなりの量のアルコールが検出された。前後不覚の泥酔状態であったといえるだろうな」　山内「酒が入ってるのは『いつも』のことなんスけど、足元ふらつくほど酔ってるのはあれが初めてだったかもしんないっすね」

山形「仕事が恋人という生活を送るうちに婚期を逃したようで、独身だ。本人は気ままでいいと思っていたようだがな」

山形「兄弟姉妹はいないようだ。両親は田舎の方でのんびりやっているようだな」

山形「部下たちによると優しくも厳しい、父親のような人間だったそうだ。新入社員の若い者には当初受け入れられなかったようだが、最近はすっかり懐いていた、らしい」

山形「普通のスーツ姿だな。所持品は財布や携帯、スケジュール帳、書類鞄といったところだな。盗まれたものはなさそうだ」

山内「いや、うちに来るときは『いつも』ってことッス。俺、この時間帯には毎日入ってるんすけど、ヨシヨシさんが来るのは必ず週末の一日だけっすね」　山形「庶務二課の連中に聞いたところ、毎週末に課の人間で飲みに行っていたらしい。行く『店』も決まっていて、『流れ』も同じだったようだ」

山形「変り者、か。先ほど言っていた新入社員に事情聴取を要請した。濱家健司（28）。今後はこの男に対する質問なども自由にしてくれ」

山形「三好は良くも悪くも普通の人間だ、そんな大金は遺していない。生命保険も入っていないようだ」

山形「うむ。他の時間帯にも来ることはあったようだが、それらはふらりと立ち寄る程度のものらしい」

濱家「それは勿論！　最初のうちは緊張して馴染めませんでしたが、親身になって話を聞いて下さるし、いやほんとに惜しい方をなくしましたよォ」　山形「………………ふん」

山形「うむ、探してみよう」　………。　「見つかったぞ。図右の車道に残っていた。一方通行でもないのに右車線に寄せて、図下の方向に発信した跡だ。間違いなくこれだろう」　山内「そういやあ、あの時、ヨシヨシさんが倒れる『直前』っすね、車は見てないっすけど、バカみたいな爆音立ててるやつがいましたよ」

山形「当然ながら課の人間ということで、直前まで定例の飲み会。終わった後は普段通り三好を送っていったそうだ。その後も普段通りに帰宅したようだ」

濱家「怖いですねえ、なんでもあのコンビニの前で亡くなられたとか。ちょうど近くまでお送りした直後だったみたいですねえ。ええ、もうその時には、車で帰路についてましたね」

山形「三好はえらく上機嫌だったらしい。特に何ということがあったわけでもないらしいが、『生意気で気に食わない新入社員』が随分持ち上げて、しこたま飲ませたらしい。………課の人間も気を使った表現をしているんだろうが、この課に入った新入社員は一人だけだ」

山形「うむ、簡単には伝えてある」

濱家「してませんよォ。私、いわゆるハンドルキーパーというやつでして」　山形「うむ、課の人間の証言でも、酒を飲んではいないようだ」

山形「うむ、早速調べてみよう」　……………。　「うむ………いいか、落ち着いて、まず深呼吸してくれ。そして驚かずに聞いてほしい。いいか？　いいな？　………車内にはピアノ線を固定した跡、窓枠にはピアノ線を擦った後、さらには血痕。タイヤ痕は完全に一致。ご丁寧なことに使用したピアノ線まで車内に残っていた」 [正解]