【猛者のスープ】君につぐ望み

～～～～～～～～～～～蛇足～～～～～～～～～～～～

家に帰れば明かりはなく、父もまだのようだった。

「電気、点けといてってば」

できるだけ大きな声を出した。静かな、暗い家は、あの日を思い出して嫌いだ。
家に帰って、明かりをつけて、母さんが血まみれに倒れていたあの日を。
ぞくりと寒気がして、明かりを点けるのをためらう。

「暗いよー」

誰かがそこにいた。知らない声。
女だ。10代、20には届かないくらいか。能天気に聞こえるが、この暗闇では凶器の所持も確認できない。
思い切って明かりを点けた。
いたのは、私より少し背が低いくらいの、ズボンの女の子。だけ。
手には何も持っていない。とりあえずは安心要素。

「いや、そんな構えなくたって取って食ったりしないってー。私はちゃんとしたお客さん！あなたのお父さんから手紙をもらってね」

不審だ。父さんが帰ってて電気がついてないなんてありえないし、もし招き入れたとしても初めての客を一人にすることはあり得ない。

「ま、私がここに入り込めた理由は重要じゃない。重要なのは、私がここに来た理由、かな。とりあえずさー、問題読んでよ」
「問題？」
「そ。あなたのお父さんが用意したウミガメのスープ。あなたにも送られてるはずだってポトフさんが言ってたよ」

ウミガメのスープとは確か、Yes/Noで答えられる質問のみで構成される推理ゲームだったか。なぜ、小説家である父が？　まあ、推理ものなら手を出してもおかしくないか。
ポストには果たして一通の手紙があった。署名も筆跡も間違いなく父のもののようだった。
そこに書かれていたのは、父さんの書いた小説として私のことが。私が最近解決した事件のいくつかが。…これは。いや、まさか、でも、

「父さんが、事件を起こしてたってこと？」
「Yes！なんでだろうねー」
「なんで？私ができそこないの探偵だから、花を持たせようって？」
「No。それは違うって書いてあるでしょ」
「じゃあなんだっていうのよ！」
「質問はYes/Noで答えられるのにしてねー」

そこで私は少女の存在を思い出す。あまりに頭に血が上っていたようだ。冷静に。

「…ウミガメのスープでもしようってわけ？」
「Yes!!問題はその手紙の通り。なぜ彼が最後の謎にウミガメのスープを選んだかだよ」

私はもう一度手紙を読み直す。望み、私のこと、事件のこと、私のために、ウミガメのスープが唐突に感じる…。

「この手紙の宛名の君は、私でいいの？」
「Yes!この手紙の場合は、そう。アレスのことだよ、ってアレスでいい？アレッサンドラ？」
「アレスで。…この手紙…あなたも手紙をもらったって言ってたわね。その手紙に書いてあるのはこれとは違うこと？」
「No!私たちにもおんなじ手紙が来た」
「じゃあ、君たちっていうのは、あなたと私？」
「Yes。察しがいいね。ついでにここで自己紹介しちゃおう。じゃないと解きづらい。私はシンディ。本名は内緒。年齢も内緒。性別も内緒。ラテシンから来たんだよ！」
「どう見たって女の子じゃない」
「なーいしょ！で、ラテシンていうのは世界中の謎が集まる場所のこと。世界中の謎好きが集まってくる。そう、私のように！」
「……」
「……反応してくれないならいいよ!もう。ウミガメのスープ再開!」

謎好きの集まる館。謎の集まる館。

「あなたはここへ謎解きに来たの？」
「No。ちがうね」
「あ、望みを叶えるために来た、か。それで、それには私の意思も必要？」
「両方Yes!やっぱ対人ウミガメ楽しいねー」

たのしい、ああ、たしかに、楽しい。一つの不思議を追うってことは。
考えるためもう一度文面に目を落とす。
そういえば、昔、私は謎解きを好きだった。
そういえば、最近起こる事件は犯人なんていない、単なる謎解きばかり。
そういえば、父さんは私に何を望んでくれたんだろう。
望むこと、誰に、何を、どこに。
そういえば、私はあの時、事件の日、望んだのだ。母を殺した犯人に、罰を。
望んであの事件の犯人を探し出し、証拠を突き付け、そしてそれは無になった。精神異常だなんてふざけた理由で。
それきり、事件の解決に、意味なんて、推理に、なぞ解きに、意味なんてないと思ってきたけど。
たのしいんだ。結局。
父さんがくれたという謎は解きごたえのあるものばかり。
最初は復讐のつもりで事件に向かって行ったけど、最近は楽しくて向かって行った。

「たのしいから？」
「お、Yes！もうひと声」
「父さんが、事件を起こしていたのは、私を楽しませるため？罰なんてなくて、ただ楽しむためだけの謎に、ウミガメのスープを選んだ？」
「Yes!正解！解説行くよー。ソロモンって人は、アレスに見返りなしの謎解きを楽しんでもらいたかったみたい。とりあえずインパクトで謎解きに興味を持ってもらって、だんだん見返りのない謎にって感じ。じゃあ、望みは？」
「謎を、楽しんで、解く、ラテシンに行けばそれが叶うっていうの？」
「いえーす！じゃあ行こう！」

シンディという少女に連れられて歩く夜道は、いつもの町のはずなのに、違って見えた。ぐにゃぐにゃと曲がり、うねり、途方もなく長く感じられる。

「あ、待って、父さんは？」
「…あれが最期の作品なんだよ」
「……死んだって、こと？」
「アレスに迷惑かけたくなかったみたいだね。ちょっと殺人教唆かなんかで疑われてたらしくて」
「……」

戻ろうと振り返る私の手をシンディが強く引く。戻ってはいけない。これから家に捜査が入るから、と。
私は、それに従った。父さんの望んだことを、叶えたいと思ったから。

「ついたよ」

そこは単なるボロ小屋のように見えた。けれど、シンディが自信ありげに入っていくのを見るに、そこがラテシンのようだ。意を決して扉をくぐる。暗くて埃っぽい場所を思って入ったけれど、そこは。

きらきらと明るく照らされていた。何人もの人がフロアに置かれたテーブルで談笑していて、ゲームをしている人もいるようだった。
奥のカウンターに、大きな頭のどことなくジャガイモに見える人がいて、私はぎょっとしたけれど、シンディは迷いなくその人の方へ歩いていく。

「ポトフさーん、連れてきたよ」
「ありがとうございます。シンディさん。そちらがアレッサンドラ嬢ですね」
「……アレスで、お願いします」

父さんが呼んでくれた名前だから。

「承知いたしました。アレスさん。お待ちしておりました。ラテシンには、あなたを受け入れる用意があります。」
「楽しい謎があるのなら、よろしくお願いします」

ふてぶてしい私に、ジャガイモ頭のポトフさんは「ええ」と笑った。
近くのテーブルで遊戯に興じていた人たちから声をかけられる。

「よろしく、アレスちゃん」
「アレスさん、歓迎します」

その顔のどれもが楽しそうな笑みに満ちているから、私は思えた。
ここで私は父さんの望みをかなえられる。父さんの望んでくれた、謎を楽しんで追いかけ続ける私でいられる。
だから、笑みを作った。

「よろしく、お願いします。」



















#big5#内#/big5#輪ノリのような感じがして、新人の自分は疎外感のようなものを感じてしまいました

#big5#亀#/big5#夫君に近いような、事件の状況確認から質問で行っていくという構成が面白いと思いました。
反面、問題文が長くとっつきにくいような印象を与えることや、物語要素が強くウミガメとしては謎の要点が掴みにくいことなどがあり、物語問題好きとそうでない人で評価が分かれるような問題だと思いました。

#big5#「#/big5#なぜウミガメのスープなのか」という問いが哲学的だと思いました。

#big5#参#/big5#加しました。心打たれる物語でした。要素が多いので発掘したものを全て繋げるのは難しそうだなと思います。

#big5#惹#/big5#きこまれる問題文のチャーム、絶妙に幾重にも重なった「謎」に関する伏線、読み込ませる物語性。
様々な点で「ウミガメのスープ」として非常に魅力のある見事な問題でした。

#big5#問#/big5#題構成は面白いと思いました。肝心の最後にラテシンを選んだという動機付けがちょっと弱いと思いました。

#big5#状#/big5#況が掴みにくい問題文だったため、チャームがいまひとつだったかと思います。しかし、解説はラテシンのキャラクターをうまく織り交ぜた素晴らしいものであり、納得感もありました。

#big5#難#/big5#しい題材をよく描けていると思います

#big5#「#/big5#ウミガメのスープ」はまず何より、明確に提示された"謎"とそれに対する明快な"答え"が必要である。この問題は、長い問題文の割に提示している謎は非常に小さく、意図がわかりづらい。それに対する答えも、観念的で漠然としている。手紙の内容に関するトリックも既視感があり、「問題として」の目新しさは残念ながら感じられない。それを物語で補っている印象だが、参加者の半数以上は、恐らくアルカーノにまつわる物語にはそこまで関心がないのではないだろうか。既存の物語の枠組みに回収されることを前提としてストーリーを作るのは感心しない。それは二次創作だ。

#big5#ラ#/big5#テシンます問題の極致です。

#big5#参#/big5#加者も巻き込んでいく感じがわくわくしました。
解説の物語がきれいに整っていて、チームとしてのまとまりを感じました。
ごちそうさまでした。

#big5#蛇#/big5#足の部分も含めて、非常に好きな物語です。一方、「挑発的な猟奇殺人から宙を歩く怪人、殺しなんてない平和な宝さがし」のくだりが、だんだん平和な謎に移行するクルーであることは分かったのですが、それだと最後の謎が「ウミガメのスープ」であることが、少し合点がいきません。元祖のウミガメのスープは人が死ぬ話なので。

#big5#ラ#/big5#テシンを題材とした、とても濃厚で完成されたストーリーが素晴らしいと思いました。ただ完璧すぎるというか、問題から回答の工程がお飾りに感じてしまって･･･。「解くことを楽しむラテシン」という、問題を通して伝えたい肝心な部分が、この問題では素晴らしい物語(回答)のための作業的な要素になってしまっているのが少し残念に感じました。

#big5#参#/big5#加者でないため、何のしがらみも煩悩もなく、率直な意見を書かせて頂きます。
仕掛けが凝っているのはわかるのですが、何しろ展開がわかりにくいです。
繰り返し読んでも、すとんと物語の構成が落ちて来てくれない、理解出来ない状態のままです。
むしろ質疑応答だけならそこそこ腑に落ちたことが、解説を読めば読むほど意味がわからなくなりました。
FA条件を読んでも、なおさっぱりわかりません。
・・・そもそも、事件の黒幕に当たる存在が父親であると娘は見抜いていなかったんですよね?
実行犯には厳罰が下ったわけですが、つまり娘のために他人を使い捨てにする辺り、相当尋常でない精神の主人公ですし。
主人公が常人ではない思考なら、それはそれでもっと異常な雰囲気が漂う問題であればわかるのですが。
何で娘思いの父親の心温まる話みたいになっているのでしょう???
そんな男の思いを勝手にラテシンに託されても困ります。
しかも「ウミガメ」自体が相当殺伐とした問題なわけですから、それで娘の精神が安定すると考えたのがまた理解出来ません。
おまけを読めば、娘の方も父親が事件を起こしたこと自体に何の恐怖も抱いていないようで・・・。
申し訳ありませんが、この話の登場人物に全く共感も理解も出来ません、それ故に展開に納得も出来ません。

#big5#解#/big5#いていくに連れて面白くなっていき、解説で完全にハマってしまいました。
ご丁寧にサブストーリーまで作られていてアフターケアも万全。
ヒントを出し、スムーズに運んでいれば完璧かなと感じました。

#big5#問#/big5#題文、解説文、いずれも整理がついていない印象でした。問題の骨格もちょっと無理ではないでしょうか。(ゴトーレーベル)

#big5#登#/big5#録期間が短いので解説のストーリーはわかりにくかったですが、手紙の謎は面白かったです。

#big5#解#/big5#説を読んでも今一つ理解できませんでした。
「彼が何故ウミガメのスープを最後の作品に選んだのか」この言葉の日本語的な危うさ(「ウミガメのスープを選ぶ」←この述部が正しい言葉遣いなのかどうか。少なくとも初見では分からないはず。)が全体的な問題の納得感に響いてきていると思います。

少々雰囲気重視にし過ぎて、肝心のトリックが疎かになっている印象です。
物語単体で見ると面白くなりそうなので、
それを生かすためにも問われていることも、結末も、分かりやすい表現(ができるようなものにする)をした方が良いと思います。

#big5#ご#/big5#めんなさい、よくわかりませんでした。

#big5#と#/big5#にかく問題文が長く、情報を頭に入れるのに気力を要しました。雰囲気作りに力を入れた結果かと思いますが、かなり質問参加のハードルが高く感じられました。また要約も長くてやや親切さに欠けたでしょうか。しかし一方で解説とまとメモにはラテシンに対する想いがたっぷり込められており、今回の猛者スープの中でこの作品が最も熱を感じられました。

#big5#少#/big5#しメタ目な問題で猛者としてはどうなんだろうかと思いましたが、ネタ自体はしっかりメタの上に作られていたので良かったと思います。しかし、普遍性、一般性に欠けるのも真実なので個人的にはマイナスポイントでした。ですがラテシンの企画であるが故の大胆な問題作りは良かったと思います。願わくばもっと度肝を抜くような驚きが欲しかったところです。問題文からどうしてもある程度の想像が出来てしまうのは少々マイナスかなと思いました。

#big5#初#/big5#めは問題文が助長に感じましたが、その全てがクルーだと理解すると思わず唸りました。FAの誘導ギミックもうまく働いていて、試みとしても面白かったです。

Goodスープ認定
「Goodスープ認定」はスープ全体の質の評価として良いものだった場合に押してください。（進行は評価に含まれません）
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