嘘つき大さじ三分の一

あるフレンチレストラン『タートル』の第三厨房でチーフのシェフが血まみれの無残な姿で発見された。



すぐに警察が入り捜査したところ、凶器となった砥石は流し台の中にあり、血痕が流されていたものの、血液反応が出た。

尚、凶器から指紋は発見されたものの、従業員は誰しも使うものだった物だということと、指紋が複数発見されたため犯人の判別は不可能とされた。厨房全体の指紋も上記の通りである。



また、被害者の男は多数からの恨みを買っており、聞き込みの結果女関係から金銭関係まで恨んでいるものは多数いるということも発覚した。



捜査の結果、アリバイが不確かで、かつ動機がある容疑者が三人浮かんできた。それぞれの主張が以下の通りだ。



①レストランのオーナー

「俺は窓際の席で食品業者との取引を行っていた。トイレに１０分ほど席を立ったが、殺してなどいない。

それよりだ！俺よりあの女を調べてくれ！金銭にも困っていたし…何よりあいつはシェフの元愛人だ！」



②ウェイターの女

「殺害時刻は店中駆け回ってたわ。正確な時間なんて分からないわよ…オーダーが多くてみんな自分のことで手一杯だったんだから！

それに…私だけ疑うなんておかしいわよ！あれよ！あの男よ！しょっちゅうシェフにいびられてた弟子のあの人が怪しいわ！」



③シェフの弟子の男

「お、俺が、食材、取りに裏に行った後…最初にシェフを発見して…その、服、血まみれで…あた、ま、殴られてて…何度も名前、呼んでも、反応なくて…そのうち、人が駆けつけて、くれて…でも、あの、俺、ほんとうにやってないんです…信じてください……。

……え、他には…？…あ、いや、…あの人…そ、うです、オーナー…です…あの人、なんか経営で、揉めてたらしいです…あ、いや…噂、です…すみません…」





当時厨房にはシェフが一人のみだった。他のコックは違う厨房にいたり、クレーム対応をしていたりとシェフは現場となった厨房に一人でいたが、その時間はおおよそ５分間のみ。

つまり、その５分間が犯行時刻となる。被害者は頭部を殴打された後、朦朧とする意識の中抵抗したという見解だ。





三人全員が動機を持っていることは確認できた。

シェフの死因は後頭部を強く殴打されたことによる脳内出血。現場は荒らされており、余程抵抗したか被害者が殴打された後暴れたと見られる。



また、シェフのエプロンの中にある彼のロッカーの鍵が無くなっており、ロッカーの中も同様に荒らされていた。調べてみると、彼の財布から現金のみが盗まれていたのが判明した。

金取りの路線か、それともカモフラージュかは未だ判明していない。



オーナーの男がトイレに立ったという１０分間は殺害時刻に一致する。

ウェイターの女が厨房に行くのは混雑した店内では難しいことではない。

弟子の男が店の裏にある食材庫に行ったことを証明をできるものはいない。



三人の容疑者の証言や、現場を状況を元にして、犯人を言い当てなさい。





「本当に私はやっていない！！経営で揉めてたのはあいつが借金などしているからだ！！」



「確かにあの人とは一度は関係を結んだけどもうそれっきりよ。あんなクズを形にしたような男にいつまでも付き合ってられないわ。…金ぇ？ああ、あの人私に借りた金返してなかったのよ」



「い、いじめられてたのは本当ですけど…でも、それは俺がノロマだからで…いや、辛かった時期は……そりゃ、ありましたけど…」