【ラテクエダブルフィンガー】二人だけの宝物

二人は夫婦であった。が、二人には子供がいなかった。

否、子供はいた。この世にはいないが、いた。

通り魔に殺されたのだ。

当時、世間はこれで騒がれたが、いつしか人々は夫婦も、子供のことも忘れていった。

「どうして私たちだけが」

この想いは膨れ上がり、やがて二人を鬼にした。



幸せそうな家族が妬ましい。

幸せを壊してしまえ。





二人は放浪の旅に出た。

子供を失った以上、失うものは何もない。

紅葉が赤く色づき始める季節、二人は紅葉狩りに出かけた。



出かけてから数ヵ月後、二人は砂浜で目を覚ました。

そうだ、星空を見ていたら眠くなって、寝てしまったんだ。

欠伸をしつつ、辺りを見回すと、小さい子供が此方に駆け寄ってくるのが見えた。

「だいじょうぶ？」

二人に差し伸ばされた小さい手。

死んだ息子と同じ年頃だろうか。そう思いつつ、女は疲れた笑みを浮かべ、差し伸べられた手を掴んだ。



砂浜に、悲鳴が響き渡った。





女の横に座り、ぼうっと海を眺める男の傍らにある鞄。

そこには二人が狩った“紅葉”が入っていた。