薄情者

　真っ暗な夜道。切れかけた街灯が僅かに瞬く。

―あ～···今日は寒いな

男は一人ごちて、家路を急いだ。

「ん···?」

街灯の下―小さな光の中に、男は黒々とした塊を見つけた。

「何だ、あれ?」

目を凝らして見ると、それは血にまみれた人―恐らく女だろう―だった。

「ひっ!?」

恐ろしくなった男は、救急車を呼んだり警察に通報したりすることもなく急いで来た道を引き返した。その後、別の道で家に帰った男は、シャワーを浴びて直ぐに眠りについた。



―翌日―

男は、朝のニュースで、昨日の道が報道されているのを見た。

「···あの人、やっぱり···けど、きっと俺が見たときにはもう手遅れだっただろうし···俺は悪くないぞ···」

そんな風に呟き、テレビを眺めていた男は不可思議な情報を聞いた。

『なお、死亡した男性は···』

―え?男?

「ま、まぁ、俺には関係ないことだし」

それきり男は、事件について考えることをやめた。



―そして数日後

事件の犯人が逮捕されたという報道を目にした男は愕然とした。

『犯人の女は夜道で行き倒れを装い、近づいてきた人間を無差別に殺害していたようです。現在···』

―お、おいおい···じゃあ、あの時近づいていたら···

男は、自分が知らぬ間に死にかけていたことを知って腰を抜かしてしまった。



解答要約:血塗れの女は、行き倒れを装った殺人鬼で、近づいた者を殺していた。男は、女を見ても近づかなかったため襲われずに済んだ。