【猛者のスープ】inoccent children
マキムラは目の前の息子の命が助かるよう目を瞑って神に祈った。
その甲斐あってか生き残ることができた息子だが、
身体が弱く遠い地の診療所で育てられる事になった。
息子を助けたことが正しかったのか愚行であったのか。
この閉鎖的な村で生まれ育ったマキムラにはその時判断ができなかった。
そして10年の歳月が流れる。
何の因果かマキムラは再び息子の命の危機に直面する。
いつも側に寄り添い大事に大事に育ててきた息子。
心臓の病を患った息子の生き残れる可能性は50%。
マキムラは10年前のことを思い出し、
息子を殺すことを決意して診療所に忍び込んだ。
自分の判断が正しいと信じて。
一体なぜ?
過去の実際のやりとりです。質問されたら参考に答えてください。
息子は犯罪を犯しましたか?
いいえ。犯罪は犯していませんよ。ええ。
動機移植は関係ありますか?
はい。臓器移植は重要でございます。ええ。
生き残れる確率50%は息子のことですか?
はい。息子のことですよ。ええ。
血液型は関係ありますか?
いいえ。血液型は重要でございませんよ。ええ。
10年前に息子が助かった時、神に祈っていたことは重要ですか?
はいいいえ。行為そのものは重要ではございませんが、なぜ祈ろうとしたかは重要でしょう。ええ。
等価交換の大原則、誰かを生かしたいなら誰かの命を奪わなければならないことは重要ですか?
はい。マキムラは誰かの命を奪おうとしていました。ええ。
問題文中の息子はすべて同一人物を指しますか?
いいえ。すべて同一人物というわけではございません。ええ。
今回の息子の命の危機は病気以外の原因ですか?
はいいいえ。病気もそれ以外の原因もございます。ええ。(ミスリード注意)
10年前、2つある対の臓器を片方切除しましたか?
いいえ。10年前には行いませんでした。ええ。
息子はマキムラの実子ですか?
はい。マキムラの実子です。ええ。(ミスリード注意)
50パーセントの確率とは、二人いる息子のうち片方が必ず死ぬ状況でしたか?
はい。どちらの50%も片方が死ぬ状況です。ただし後半の50%は例えば数字が10%でも成立しますよ。ええ。
10年前と今とで息子の危機の内容は違いますか?
はい。危機の内容は違います。ええ。
10年前の
はい。10年前に息子は生まれています。ええ。
マキムラは医者ですか?
はい。解説では医者になっております。ええ。
今息子を生かす選択をすると、他の誰かの命が失われますか?
はい。誰かの命は失われるでしょう。ええ。(ミスリード注意)
10年前、双子の片方を殺し、臓器を利用しましたか?
いいえ。ただしマキムラはある理由で10年前に双子の片方を殺そうとしました。ええ。
マキムラは孤児院の院長みたいな人で入れ代わり立ち代わり子供は一杯いますか?
いいえ。孤児院は関係ありませんよ。ええ。
マキムラには二人の息子がいますか?
はい。マキムラには2人の息子がいます。ええ。
核心マキムラの息子よりもマキムラは妻か孫を助けますか?
いいえ。マキムラはマキムラの息子を助けようとしているのでございます。ええ。(ミスリード注意)
マキムラ2世は初代マキムラに命を救われたものの自分の子であるマキムラ3世の命を助けようとはしませんか?
いいえ。3世は関係ないですよ。ええ。
殺される息子の臓器は利用されますか?
いいえ。解説では利用しなくて済みます。ええ。
マキムラは女性ですか?
了解しました。ええ。
心臓に病を患った息子は診療所にいますか?
いいえ。診療所にはいません。ええ。
マキムラは女性ですか?
はいいいえ。どちらでも成立は致します。ええ。
診療所に忍び込んだのは何かを盗むためですか?
いいえ。何かを盗むためではございません。ええ。
有機資源の限られる閉鎖空間で、自分の心臓の為に、人造生命を利用しますか?
いいえ。人造生命などは関係ございませんよ。ええ。
心臓の病を患った息子と、マキムラが殺すことを決意した対象の息子は同一人物ですか?
いいえ。同一人物ではないです。ええ。
マキムラは今、10年前の判断が正しくなかったと思っていますか?
はいいいえ。マキムラが10年前の判断についてどう思っているかは重要ではありません。ええ。
宗教は関係しますか?
はいいいえ。宗教というよりは掟のようなものでしょう。ええ。
マキムラの息子は生きていると不都合がありますか?
はいいいえ。どちらかは確かに生きていると不都合があります。ええ。
問題文中経過したのが10年ではなく、1年でも問題は成立しますか?
はい。成立はするでしょう。ええ。
50%の確率なのは双子だからですか?
はい。双子でございます。ええ。
最初二人の息子が危篤に陥り、どちらかの臓器でどちらかを助けるという選択をしなかったマキムラ。奇跡的にどちらも助かったが、片方は遠くへ。今度一緒に暮らしていた息子が危篤になり、遠くの息子の臓器を使うため殺しますか?
前半はいいえ、後半ははい。10年前に危篤に陥ったわけではございません。ええ。
非現実要素はありますか?
いいえ。非現実要素はございませんよ。ええ。
10年前、マキムラには双子の区別がついていましたか?
はい。区別はついていました。ええ。
マキムラは1度目は片方の息子を助けるために、2度目は自分が助かるために息子を殺しましたか?
はいいいえ。2度目は自分が助かるためではございません。ええ。
双子である息子の見た目がよく似ていることが重要ですか?
いいえ。見た目は重要ではございません。ええ。
閉鎖的な村は、双子を忌み嫌って片方は処分する習わしがありますか?
はい。村には片方の双子を処分する習わしがありました。ええ。
双子は忌み嫌われているため間引きしなければならないのをマキムラは遠くの診断所に逃がしましたか?
はい。双子の片方を遠くの診療所に逃がしたのです。ええ。
閉鎖的な村では双子が縁起悪いと殺されかけ、遠くに逃がして生かしましたか?
はい。その通りでございます。ええ。
その村には、食料の問題から子供の数を制限する掟があり片方を遠くへ、再婚して新しくできた子供は心臓が悪い、残った子供を遠くへやるなら心臓を使ってしまおうですか?
いいえ。マキムラは再婚はしておりません。ええ。
双子がくっついて生まれてしまったので、これからを考え、どちらかを殺すか、分離して両方助けるかで、結果両方助かった。しかし、臓器の一部が半分になってしまい、二人とも体が弱く、一人が病になったので、やはり片方を殺し助けるべきだと思い、診療所にいる体の弱い息子の心臓を移植するため殺しますか?
前半ははい、後半はいいえ。臓器移植が必要だったのは片方だけです。ええ。
マキムラは掟に背いて双子を両方とも育てていましたか?
はいいいえ。双子は生かしましたが、片方は離しました。ええ。
診断所にいる子供は生きている子供の代用品なので心臓を奪いに行きますか?
はいいいえ。心臓は奪おうとしていたのです。ええ。
40.正しいか迷ってたのは、本当に厄災いを運んでくるかもと考えていたから、そしてこの度臓器移植とは別に、殺してしまえば息子は助かるとも考えましたか?
いいえ。そうではございません。ええ。
マキムラの妻は重要ですか?
いいえ。解説には登場しますが重要ではございません。ええ。
マキムラめはまんまと大切なものを盗んでいきましたね? ( ゚д゚)
いいえ。大切なものは盗んでませんね。ええ。(笑)
核心10年前に風習の関係で村から一人双子を逃がしてごまかして、今回残ったほうの双子に臓器移植の必要が出たので、前に逃がしたやつを殺しますか?
はい。その通りでございます。ええ。
遠くへやった双子の片割れは再婚相手の義理の息子。今度は臓器移植で逆を選びましたか?
いいえ。再婚はしていませんよ。ええ。
核心村の掟で双子の息子の片方を殺さないといけなかったが殺したくなかったのでマキムラは片方の息子を遠くの診療所に逃がしたが、10年後にもう一方の息子が心臓の病気を患ったので、遠くの診療所に忍び込んで10年前に逃がした息子を殺して心臓を奪い、大事に育てた息子に移植しようと思いましたか?
はい。その通りでございます。ええ。
答え
この村には鏡がない。
村人は自分の姿がものに映ることを忌み嫌う。
自身が持っている「悪しきもの」が映し出されると信じている。
そしてこの村にはある「掟」がある。
・・・
マキムラはこの村唯一の医師である。
マキムラの父親も、祖父も、曽祖父も。
代々この村で医師をつとめてきた。
の世に生を受けた時から医師になることが決まっている。
マキムラが心を病んでしまったのは、家庭環境と医師以外の可能性がない未来しか
見れなかった少年時代が影響している。
目的も何もないモノクロームの世界。そのマキムラの世界に朱が差し、緑が芽吹いたのは
将来の伴侶、キクとの出会いがあったからだ。
キクと初めて出会ったのはマキムラの自宅。病院だった。
風邪をひいて病院に赴いたキク。感情の起伏のない淡々としたマキムラの診察を受けた後、
「あなたは大丈夫なんですか?」と声をかけられたのがきっかけだった。
キクは風邪が治った後も病院に通った。
今まで物静かだった病院に彼女の屈託のない笑い声が響くようになった。
その笑い声の中にマキムラの笑い声が混ざるようになった頃。
二人はこの村にある神社で生涯を添い遂げる誓いをたてたのであった。
・・・
この村にある神社。その裏の森を進んだところに祠がある。
祠には常に花が供えられている。
色鮮やかな花が並ぶ祠には、多くの赤子の死体が埋まっている。
病気で死んだのではない。
死産になった訳でもない。
赤子は全て殺されたのだ。
この村の「掟」に。
・・・
キクは身篭った。
マキムラは果たして自分が我が子を育てられるか不安だったが、
キクの幸せそうな横顔が、その不安を和らげてくれた。
分娩はマキムラが行なう。
今までも村の女たちの出産はマキムラが行なっていた。
そう今までもマキムラが出産に立ち会い、そして
・・・・
「掟」は残酷である。
しかし、昔から続けられてきたこと。
担当する医師に罪悪感はなかった。
産まれてくる赤子が双子だった場合。
双子の片割れはいつか「悪しきもの」になってしまう。
泣き叫ぶ母親を横目に。
医師は双子の片割れの心臓に杭を穿つ。
死した双子の片割れを、医師は神社裏の祠に運ぶのだ。
・・・
マキムラは杭を握りしめている。
キクが産んだのは双子であった。
今までであれば、双子の片割れはすぐに殺してきた。
しかし目の前にいるのは我が子。
愛するキクと私の間に産まれた子なのだ。
痛いほど杭を握りしめていた右手の力が抜け、
音を立てて杭が地面に落ちる。
マキムラは村の掟に目を瞑った。
そしてこのことが露見しないよう神に祈った。
そうしないと双子のどちらかが死んでしまうのだ。
この判断が果たして正しいのか。答えはわからない。
マキムラはキクとも相談し、双子を匿いながら育てることを決意した。
ゼンとリョウ。
どちらも「悪しきもの」にならぬように願いを込めた名前。
これが二人に与えられた名前だった。
そして何事もなく2年の歳月が過ぎた。
リョウはとても体が弱く、いつも床に伏せがちだった。
マキムラはリョウを遠い地の診療所に預けることを決意した。
そこには信頼の置ける親友が勤めている。
これから二人が成長するにつれて、二人を匿うのも限界がくるだろう。
療養と隠匿。
マキムラはリョウと離れることを決意した。
そしてリョウを診療所に預けてまた2年の歳月が過ぎた。
リョウは親友が養子として受け入れ、体は弱いものの幸せに暮らしているという。
一方マキムラはゼンの存在を隠す必要がなくなり、親子三人で慎ましい生活を送る毎日。
リョウのことを心の奥で気にしながらもマキムラは今までにない
心の充足を得ることができた。
しかしそんな日々も長くは続かなかった。
双子が産まれて10年が経った頃。
まだ幼いゼンに心臓の病が見つかった。
外科手術が必要であり、その生存率は50%。
半分の確率でゼンは死ぬ。
それを考えただけでマキムラは震え上がった。
恐ろしくて恐ろしくてどうしようもなかった。
しかし、この50%の確率が限りなく100%に近づく方法が一つだけあった。
心臓移植。
脳死状態、そして同年代のドナーが見つかればゼンは助かる。
しかしそんな都合のいいドナーなど存在しないであろう。
思い浮かべるのは遠い地にいるリョウの存在。
ずっと側にいてキク以上に自分の心を満たしてくれていたゼン。
8年近く会うこともなく、親友の息子として育っているリョウ。
10年前のあの日。俺はリョウを殺さなかった。
本当は死ぬはずだった子供を生かしたんだ。
ほんとナラシンデイタ。
ホントナラアノコドモハソンザイシナイ。
診療所に向かう電車の中。
マキムラの頭には自らの正当性を訴える言葉で埋め尽くされていた。
そして、電車は止まった。
時刻は真夜中。マキムラはリョウがいる診療所に忍び込んだ。
エピローグ
木漏れ日。鳥の鳴き声。川のせせらぎ。
ゼンは林の中にある墓の前で手を合わせていた。
30年前、ここには忌まわしき祠があった。
今は様々な形の小さな墓が並んでいる。
ふと人の気配を感じ、振り返ったゼン。
そこにいたのは小さなキクの花を携えた弟のリョウだった。
ゼンとリョウの両親は今まで誰も触れなかったこの村のタブーに、
この村の掟に異議を唱え、村人たちを説得して回った。
古くからの因習は根強く、両親は村人たちから村八分の扱いを受けた。
しかし若い村の者たちの賛同を集め、ついにはこの村から掟をなくすことができた。
今では家に鏡があるのが当たり前になり、無精髭の男たちが少なくなった。
振り返ったゼンの顔を見て、リョウは父親の顔を思い浮かべていた。
育ての親ではなく、生みの親のことを。
あの日、真夜中に部屋に入ってきた男は自分の顔を見るなり、泣きながら崩れ落ちた。
それが自分の生みの親であることを初めて育ての親から聞かされたのだ。
そして兄の存在のことも。
兄は生存率50%の心臓の手術を受け、無事生還した。
兄もその時に自分の存在を両親に聞かされたらしい。
リョウはゼンの隣に並び、墓前にキクの花を供え、ゼンとともに手を合わせた。
しばらく墓前に佇んでいると、後ろから自分たちを呼ぶ子供達の賑やかしい声が響いてきた。
男の子が二人に、女の子が二人。
リョウとゼンはお互いの顔を見つめた後、どちらともなく微笑んで、そして子供達に手を振った。
要約解説
双子が忌み子とされ、片方が殺される村、そんな村の医者であるマキムラ。
そんなマキムラの元に双子が産まれる。
村の掟に目を瞑り、双子を共に生かす事を選んだマキムラだが、
子供の身体の弱さから、友人の医師の診療所に息子を一人預かってもらう事を決める。
それから数年後、マキムラの元に残った息子が心臓病にかかる。
その時の医療技術で、直せる可能性は五分と五分、50%であった。
ただ、それを限りなく100%助かるといえる状態にする方法があった。
心臓移植。
適合する事、同年代である事、提供者の命はない事…など条件は厳しかったが、
マキムラにはその条件をほとんど満たす相手を一人知っていた。
数年前、預かってもらった双子の息子。本来は存在しないもう一人の息子。
マキムラは自分を正当性で塗り固めながら、もう一人の息子のいる診療所へ向かった。
自分の息子の心臓を手に入れるために。
10年越しに、二人を一人にするために。
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