ウミガメのスープ

父からの手紙

作者: 大和守

父が死んだ。突然のことだった。
几帳面でこだわりが強い人だったので、葬式や納骨について細かい指定をした遺言状があるだろうと、父の書斎に入った。
いかにも大切そうな箱の中に、封筒を見つけた。しかし一通ではない。母宛の、渡されなかった手紙が、そこにはたくさんしまいこまれていた。
共に還暦を迎えたことを祝う手紙や、銀婚式に書かれた手紙。このあたりは最近書かれたものらしい。遡ると、結婚前の手紙まであった。

“惠子へ 去年君と見た櫻は、今年もそろそろ見頃だらうか。こちらはまだ寒い日が續く。次に京都に行く際には、君の御兩親に挨拶がし度い。 “

“惠子さんへ お元氣ですか。先日は京都を案内して下さつて有難う。京都の櫻は、今まで見たどの櫻よりも美しかつた。櫻柄の着物の貴女は、今まで見た何よりも美しかつた。”

私の知る父からは想像がつかない文章だ。きざな愛の言葉に思わず笑みがこぼれた。そういえば母から、桜には思い出があるから一人娘である私の名前に使ったと、聞いたことがあった。デートの思い出だったのだろう。

最後に、他とは違う封筒を見つけた。宛名が私の名前なのだ。

“櫻子へ”

私は中身を読むこともなく、その手紙を燃やした。なぜ?

出題者が、解き手の進み具合に応じて上から順に出すためのヒントです。

ヒントはまだありません。

過去の実際のやりとりです。質問されたら参考に答えてください。

私は、父と一緒に暮らしていましたか?

どちらでも成立します。

はい

私宛の封筒に手紙は入っていましたか?

YES

いいえ

私には封筒の中身がわかっていましたか?

NO ミスリード注意。

はい

宛名の字に使われている櫻が旧字体なのは重要ですか?

YES

父と私とは血がつながっていますか?

重要ではありません。

いいえ

私宛の手紙が書かれたのは、最近ですか?

NO ミスリード注意。

はい

母は生きていますか?

YES

いいえ

その手紙は、本当に私宛のものでしたか?

NO

私≠櫻子ですか?

当問題の趣旨としてはYES ミスリード注意。

私の名前が初恋の人から取ったのを察して見なかったことにしましたか?

YESNO 初恋の人である必要はありませんが大筋はその通りです。なぜそう思ったのでしょう?

櫻子さんは私以外にもう一人いますか?

YESNO YESと思っていただいて良いですが、9と矛盾してしまうので。

はい

私の名前は桜子ですか?

YES

はい

箱の底に入っていたのと古びた見た目で父が母に会う前の物だとわかりましたか?

YES それが確信をもたらしましたが、重要なのは4です。

はい

父が、母でも自分でもない女性宛てに書いた手紙を母に見られないように燃やしましたか?

YES その通りなのですが、なぜ桜子が「昔父が私に宛てた」のではないと思ったのか、4を含めてまとめていただきたいです。

はい

核心父は私の名前を桜子と書き、櫻子と書くことは絶対にありませんでしたか?

YES 13と合わせて正解です。

答え

父が死んだ。突然のことだった。熟年離婚とはほど遠いおしどり夫婦だったので、母は呆然としたままだ。
私自身も実感はないが、一人娘である私がしっかりしなくてはと、遺品整理を始めた。几帳面で、こだわりの強い父のことだから、「葬式はこうやれ」とか「誰は呼べ誰は呼ぶな」とか「墓はこうしろ」とか、そんな遺言状を残していることだろう。生前の遺志を実現してあげたい。
父の書斎には、私も母もほとんど入ったことがない。勝手に自分のものを動かされることが嫌いな人だったから。
しばらくして、いかにも大切そうに箱にしまわれた封筒の束を見つけた。

“恵子へ 五十年目の桜も共に見れたこと嬉しく思う。桜子の結婚も、孫の顔も見ることができて、思い残すことはない。”

“恵子へ 共に還暦だ。これからも、お前と年を重ねていきたい。”

“恵子へ 銀婚式なので、手紙でも書けと桜子に言われた。”

母へ渡さなかった手紙の数々、一番上が最も新しく、奥へいくほど古いようだ。最近の手紙から若かりし頃へ遡り、やがて一通の手紙を見つけた。

"櫻子へ"

それは、確かに私の名前「桜子」の旧字体である。しかし手紙を見る限り、父はある時期を境に旧字を使用することをきっぱりとやめている。私の名前は他ならぬ父自身によって、「桜子」と役所に届けられている。父が私の名前を「櫻子」と書いたことは、一度もないと記憶している。荒い手触りの紙に、色褪せた文字。母へ宛てた手紙より奥にある、旧字体。
これは、母と出会う前に、櫻子という女性に宛てた手紙だろう。
私の名前は、両親の思い出がある桜からとって付けられたと、母からはそう聞いている。しかし、父が昔愛した女性の名前でも、あるのかもしれない。母と結婚して何年経っても、母への渡さない手紙が何通増えても、捨てられず大切にしまわれていた一通の手紙。真実は、今となっては誰にも分からない。
しかし、「櫻子」に宛てられたこの封筒を開けることで、私も母も、そして父も、誰も幸せにならないということは、確かなことだ。
私はこの手紙をひそかに父の棺桶に入れ、文字通り墓まで持っていてもらうことに決めた。


要約:私は、宛名が旧字体で書かれていたので、桜子である自分ではない別の女性に宛てられた手紙だと気づいた。自分の名前の由来が、過去に父が愛した女性の名前かもしれないという可能性を抹消するために、手紙を廃棄した。
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