ウミガメのスープ

正しい時刻

作者: 牛削り

私は腕時計に目をやった。
十五分ほど遅れているようである。

(今、正しい時刻に合わせれば、奴を殺せるかもしれない)

どういうことかわかるかい?

出題者が、解き手の進み具合に応じて上から順に出すためのヒントです。

ヒントはまだありません。

過去の実際のやりとりです。質問されたら参考に答えてください。

はい

腕時計が日本標準時(JST)より15分遅れていますか?

yes!

はい

私の腕時計の時刻は、正しい時刻から15分遅れていますか?

yes!

はい

登場するのは「私」と「奴」の2人ですか?

yes 解説では他にも大勢登場しますが、まあ考慮すべきはこの二人だけで十分です。

はい

奴は人間ですか?

yes!

いいえ

イギリスでは待ち合わせに常に15分ほと遅れて行く習慣があるそうですが重要ですか?

no!

いいえ

腕時計のリューズに特異性がありますか?

no!

いいえ

私が想定している奴の死因は、私が直接攻撃することによるものですか?

no!

その腕時計にアラーム機能はついてますか?

yesno どちらでも構いません。

「奴」は時刻を知る事ができますか?

yesno どちらでも構いません。

いいえ

時計を合わせようとしたら手に書いていたメモ(奴の弱点)を見つけますか?

no!w それ前の問題w(ネタ良質)

はい

「時刻に合わせる」ものは分針ですか?

yes! まあ、時針も少しは動きますが。普通に時刻合わせするときのやり方を想像していただけば問題ありません。

はい

腕時計は私のものですか?

yes!

いいえ

私の意図的に腕時計を15分遅らせていましたか?

no!

いいえ

腕時計の他に15分遅れている何かがありますか?

no!

いいえ

私は飛行機などで移動しようとしていますか?

no!

奴が腕時計を遅らせましたか?

結果的にはyes! ※ミスリード注意

奴は私の腕時計が遅れている事を知っていますか?

yesno どちらでもいいです。

いいえ

腕時計がビッグベンでも成立しますか?

no!

いいえ

私は奴と待ち合わせしていますか?

no!

はい

「私」と「奴」の現在地は重要ですか?

yes? 厳密な特定は不要ですが……

いいえ

私のいる場所は重要ですか?

no!

いいえ

非現実要素はありますか?

no! 完全に現実的なはずです! 非現実にならないようにだいぶ調べましたから!

いいえ

カニバリますか?

no!

いいえ

私は奴の行動予定を把握していますか?

no!

はい

特定の分野の知識が必要ですか?

yes! 完全解答するには"ある知識"が必要ですが、FA条件としては一般人レベルの知識を設定しています。

はい

15分以外でも成り立ちますか?

yes! 具体的な分数は関係ありません。1時間以内くらいなら、まあ成り立つでしょう。

いいえ

7より、「奴」の想定される死因は事故死ですか?

no!

はい

件の腕時計は私はつけていますか?

yes! 腕時計は私がつけているものです。

いいえ

時効は関係しますか?

no! でも!

男に何かの罪をかぶせようとしますか?

yesno 濡れ衣を着せるという意味ならno!

はい

現代日本において余裕で成立しますか?

yes! 現在の日本を想定しています。数年前や数年後だと成立しないかもしれません。

男に罪をかぶせようとしましたか?

yesno 濡れ衣を着せる、という意味ならno!

はい

男は処刑されますか?

yes!!!! おそらくは!

いいえ

サマータイムは重要ですか?

no!

はい

奴の職業は重要ですか?

yes! 職業というよりは!

はい

日付の変更は関係しますか?

yes!!!!!!!!!

いいえ

奴は外交官ですか?

no!

いいえ

絞首刑であることが重要ですか?

no?

私の時計は電波時計ですか?

yesno どちらでも構いませんが、yesの方が納得度は高いでしょう。

いいえ

奴は今裁判所にいますか?

no! まだシャバです。

私の職業は重要ですか?

yesno 解説ではある職業を設定していますが、それ以外でも成り立ちうるでしょう。

はい

腕時計は男の犯行の証拠となりますか?

yes! 捜査の上で、「あること」を立証する重要な証拠になります。

いいえ

まとめると、私の時計を15分ぶんずらして正しくすれば、奴が冤罪で逮捕される、ということですか?

no! 冤罪ではありません!

いいえ

私の時計が遅れていたおかげで、既に時効が成立したと勘違いした奴から自白を引き出せましたか?

no! 時効は関係ありません。

いいえ

放火は関係ありますか?

no!

いいえ

準現行犯逮捕が可能な時刻に合わせる必要がある状況ですか?

no! そこまで難しい話じゃないです。

腕時計に電灯機能はありましたか?

yesno どちらでも構いません。

はい

私は奴が起こした事件の被害者ですか?

yes!!!!!!!

はい

私は奴に殺されかけましたか?

yes! というか、殺されます。問題文は死の間際の状態です。

いいえ

奴は私が死んだと思い時計の時間をずらしてその時間を死亡時刻に偽装しようとしたが意識があった私はその時刻を戻し 男のアリバイが成立しないようにしましたか?

no! アリバイは関係ありません!

いいえ

私は建物の中に監禁されていたため、電波時計が電波を受信できず、時計が遅れてしまいましたか?

no!

核心死亡時間をずらすことで、日付けが変わり奴は未成年から成人になり、刑が重くなりますか?

正解です!!!(解説とは少し違いますが、FA条件OKです)

答え

頭が痛い。こんな激痛は初めてだ。
おそらく、私はもうすぐ死ぬのだろう。
36年。短い生涯であった。

小さい頃、ちょっとした非行少年だった。
ある法務教官に世話になって以来、法曹を志すようになった。
親譲りで物覚えが悪く、法律関連の試験はことごとく落ちた。
結局、法曹は諦め高校教師になった。それでも、せめて少しでも法に近いところにいたいと、生徒指導を買って出た。
生徒たちは毎日のように問題を起こした。しかし皆、しっかり向き合うことで、考えを改めてくれた。
これで良かったのだ、と思っていた。
若者の非行を未然に防ぐことのできる位置で法秩序に貢献できるし、忙しい法曹では得られなかったであろう妻や娘との時間も作れる。
幸せだった。

あの日までは。

5歳になる娘のれいが殺された。
この近辺で起きている幼児連続殺人事件の被害者の一人になったのだ。
何故私の娘が。何故まっとうに生きてきた私がこんな目に。
憤りと悲しみは尽きなかった。
妻は耐えられなくなり、田舎に戻っていった。
しかし、私には悲しむより他にすべきことがあった。

れいの事件で、私は警察も見落としたささいな証拠から、犯人は私の教え子の中にいるらしいと気付いた。生徒数人に話を聞き、漆原が犯人だと確信した。

漆原大吾。三年生。
学校イチの問題生徒で、何度も指導したことがある。万引きした店に一緒に謝りに行ったし、危ない連中のところに出入りしているのを見つけては引っ張り出した。漆原のことならだいたい把握している、つもりだった。

──あいつが。

私は漆原行きつけのバーで奴を見つけ、うちで飲まないかと誘った。奴は素直についてきた。
事件のことで水を向けると、私のことを舐めているのか、すぐに自供した。いや、むしろ自慢というべきか。

「俺すごくね? ケーサツ超警戒してんのに、裏かいて毎週一人ずつ殺ってんだぜ。こないだのガキはケッサクだったな。目ェ潰してやったら、見えねーから俺のこと父親だと勘違いしてやんの。『パパ助けて』とかうるせーから、ノドをぶっさしてやったぜ」

れいのことだ。すぐに思い至ったが、脳がその結論を拒否していた。

「漆原、自首しなさい。今なら……いや、もう取り返しはつかないが、君は償わなければいけない」

「はあ!? 自首!? するわけねーじゃん。何言ってんの? 誰も得しねーじゃん。いつもなあなあで済ませるてめえだから言ってんのに」

なあなあで……。生徒にとって私の指導はそんなものだったのか。

「ダメだ。先生も一緒に行く。自首しよう」

漆原の手を引いた。

「ざけんな」

漆原は反対の手で手近な置物を掴み、殴りかかってきた。私はとっさに、左手でそれを防ぐ。手首に当たり、激痛が走る。うつむいた私の後頭部に、次の打撃が。

そこで、記憶は途絶えている。


かろうじて目を開くと、床に投げ出された私の左手が見えた。腕時計のガラスが割れて、針は動いていない。先ほどの衝撃で壊れてしまったらしい。
23時45分。これが犯行時刻だ。漆原は逃げてしまったようだ。

と、壁の柱時計の鐘が24時を告げた。
日付が変わった。

私は漆原のことならだいたい把握している。
今日は、奴の18歳の誕生日だ。

瞬間、朦朧とした頭の中に、膨大な情報が流れ込んできた。



  "刑法第199条 人を殺した者は、 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。"

  "年齢計算ニ関スル法律第2項  加齢する時刻は誕生日前日午後12時とする。"



そして、"少年法第51条……



凶器の置物は転がっている。漆原には指紋を拭う知恵はない。私の手帳には、漆原が犯人だという推理に至るまでの過程が事細かに記されている。
奴が捕まるのも時間の問題だろう。
もう一度腕時計を見る。23時45分。 その時奴は、17歳。



  "少年法第51条第1項  罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。"


つまり奴が捕まったとしても、犯行時に17歳だったことが証明されれば死刑になることはありえない。


そのとき私は、自分の脳内に飛来したひとつの悪意に、身震いした。

思う。


法とはなんだろう。
私の信奉してきた、法とは。

知っているはずのことなのに、今はじめて、それを学んだような気がした。

法とは、裁くべきものを裁き、守るべきものを守る、ためのものである。

あいつは、漆原はどちらだろうか。
私は数秒間、目を閉じた。

様々な光景が浮かんでは消えていく。
罪を犯した生徒、立ち直って卒業していった青年、愛する妻、そして愛していた娘。
こうして死の間際に意識が戻ったのは、法という神から与えられた試練なのかもしれない。

目を開く。
何も問うべきことなどない。
最期まで法に生きよう。

私はこの身に残ったすべての力で、腕時計の針を" 正しい時刻"に合わせた。





─────────────────────

簡略解説

18歳の誕生日を目前に控えた少年に殴られた。
この時に腕時計が壊れ、犯行時刻で止まってしまう。
犯行時に18歳未満だった者は少年法により死刑にならないため、
腕時計の針を進め、犯人が18歳になってからの犯行に偽装した。

— 力作

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