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「正しい時刻」「74ブックマーク」

[牛削り] 2014年09月25日19時22分
は腕時計に目をやった。
十五分ほど遅れているようである。

(今、正しい時刻に合わせれば、奴を殺せるかもしれない)

どういうことかわかるかい?


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残酷な描写がありますので、注意してください。








が痛い。こんな激痛は初めてだ。
おそらく、私はもうすぐ死ぬのだろう。
36年。短い生涯であった。

小さい頃、ちょっとした非行少年だった。
ある法務教官に世話になって以来、法曹を志すようになった。
親譲りで物覚えが悪く、法律関連の試験はことごとく落ちた。
結局、法曹は諦め高校教師になった。それでも、せめて少しでも法に近いところにいたいと、生徒指導を買って出た。
生徒たちは毎日のように問題を起こした。しかし皆、しっかり向き合うことで、考えを改めてくれた。
これで良かったのだ、と思っていた。
若者の非行を未然に防ぐことのできる位置で法秩序に貢献できるし、忙しい法曹では得られなかったであろう妻や娘との時間も作れる。
幸せだった。

あの日までは。

5歳になる娘のれいが殺された。
この近辺で起きている幼児連続殺人事件の被害者の一人になったのだ。
何故私の娘が。何故まっとうに生きてきた私がこんな目に。
憤りと悲しみは尽きなかった。
妻は耐えられなくなり、田舎に戻っていった。
しかし、私には悲しむより他にすべきことがあった。

れいの事件で、私は警察も見落としたささいな証拠から、犯人は私の教え子の中にいるらしいと気付いた。生徒数人に話を聞き、漆原が犯人だと確信した。

漆原大吾。三年生。
学校イチの問題生徒で、何度も指導したことがある。万引きした店に一緒に謝りに行ったし、危ない連中のところに出入りしているのを見つけては引っ張り出した。漆原のことならだいたい把握している、つもりだった。

──あいつが。

私は漆原行きつけのバーで奴を見つけ、うちで飲まないかと誘った。奴は素直についてきた。
事件のことで水を向けると、私のことを舐めているのか、すぐに自供した。いや、むしろ自慢というべきか。

「俺すごくね? ケーサツ超警戒してんのに、裏かいて毎週一人ずつ殺ってんだぜ。こないだのガキはケッサクだったな。目ェ潰してやったら、見えねーから俺のこと父親だと勘違いしてやんの。『パパ助けて』とかうるせーから、ノドをぶっさしてやったぜ」

れいのことだ。すぐに思い至ったが、脳がその結論を拒否していた。

「漆原、自首しなさい。今なら……いや、もう取り返しはつかないが、君は償わなければいけない」

「はあ!? 自首!? するわけねーじゃん。何言ってんの? 誰も得しねーじゃん。いつもなあなあで済ませるてめえだから言ってんのに」

なあなあで……。生徒にとって私の指導はそんなものだったのか。

「ダメだ。先生も一緒に行く。自首しよう」

漆原の手を引いた。

「ざけんな」

漆原は反対の手で手近な置物を掴み、殴りかかってきた。私はとっさに、左手でそれを防ぐ。手首に当たり、激痛が走る。うつむいた私の後頭部に、次の打撃が。

そこで、記憶は途絶えている。


かろうじて目を開くと、床に投げ出された私の左手が見えた。腕時計のガラスが割れて、針は動いていない。先ほどの衝撃で壊れてしまったらしい。
23時45分。これが犯行時刻だ。漆原は逃げてしまったようだ。

と、壁の柱時計の鐘が24時を告げた。
日付が変わった

私は漆原のことならだいたい把握している。
今日は、奴の18歳の誕生日だ。

瞬間、朦朧とした頭の中に、膨大な情報が流れ込んできた。



  "刑法第199条 人を殺した者は、 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。"

  "年齢計算ニ関スル法律第2項  加齢する時刻は誕生日前日午後12時とする。"



そして、"少年法第51条……



凶器の置物は転がっている。漆原には指紋を拭う知恵はない。私の手帳には、漆原が犯人だという推理に至るまでの過程が事細かに記されている。
奴が捕まるのも時間の問題だろう。
もう一度腕時計を見る。23時45分。 その時奴は、17歳



  "少年法第51条第1項  罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。"


つまり奴が捕まったとしても、犯行時に17歳だったことが証明されれば死刑になることはありえない。


そのとき私は、自分の脳内に飛来したひとつの悪意に、身震いした。

思う。


法とはなんだろう。
私の信奉してきた、法とは。

知っているはずのことなのに、今はじめて、それを学んだような気がした。

法とは、裁くべきものを裁き、守るべきものを守る、ためのものである。

あいつは、漆原はどちらだろうか。
私は数秒間、目を閉じた。

様々な光景が浮かんでは消えていく。
罪を犯した生徒、立ち直って卒業していった青年、愛する妻、そして愛していた娘。
こうして死の間際に意識が戻ったのは、法という神から与えられた試練なのかもしれない。

目を開く。
何も問うべきことなどない。
最期まで法に生きよう。

私はこの身に残ったすべての力で、腕時計の針を" 正しい時刻"に合わせた。





─────────────────────

略解説

18歳の誕生日を目前に控えた少年に殴られた。
この時に腕時計が壊れ、犯行時刻で止まってしまう。
犯行時に18歳未満だった者は少年法により死刑にならないため、
腕時計の針を進め、犯人が18歳になってからの犯行に偽装した。

「恋するフォーチュンクッキー」「73ブックマーク」

[脳内カーニバル] 2014年04月01日22時36分
日はバレンタインデー。

カメタは幼馴染のカメコからハート形のクッキーを貰ったのですが、なぜか悲しげな様子です。

一体何故でしょうか?


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はカメタはカメコの事が好きでした。
そんなカメコから貰ったクッキーは、雑な四角い生地がハート形に「くり抜かれた」クッキーでした。
くり抜いた方のちゃんとしたクッキーは誰にあげたんだろう・・・と少し悲しげなカメタでした。

「11人いた」「73ブックマーク」

[とかげ] 2015年11月11日22時47分
宙船には10人分の食糧が積み込まれていたが、乗っていたのは11人。途中で食糧が足りなくなり、仕方なく、誰が死ぬかを決めるためにくじを引くことにした。
たった1人、当たりを引いてしまったのは、男が愛する女だった。泣きわめいて嫌がる彼女を、男は自らの手で殺した。

彼女を愛するがゆえに。


どういうことだろう?


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えば、この旅はそもそもスクランブルから始まった。
10人乗りの宇宙船による、冒険旅行。必要な生活用品や食糧は宇宙船に積み込まれているし、客室やキッチン、娯楽スペース、重力装置などの設備は整っているが、旅行会社のスタッフは添乗しない。コンピュータによる自動操縦のため、パイロットすらいない。
10人の乗客達が共同生活をしながら、約1ヶ月宇宙空間を漂う、今注目のツアーだ。
有名な観光衛星をいくつも眺められるコースでありながら、人件費がかからないという理由で旅費自体は比較的安価であるため、特に若い世代に人気だった。ちょっとしたサバイバル感覚を楽しめるというのも売りにしていた。
とはいえ、やはり一番予約が殺到するのは長期間休みが取りやすい盆暮れ正月の時期で、シーズンオフのその日――11月11日に出発するのは「スペース・ウォーク11号」だけだった。

むしろこの時期によく実施可能人数まで集まったなと感心していたくらいなので、時間通り無事に打ち上げられた「スペース・ウォーク11号」のロビーで初めて顔を合わせたとき、その場にいる人数の多さに驚いた。

10人どころか、11人いたのだ。

しかし、全員のチケットに「スペース・ウォーク11号」の名と正確な日時が記されていた。第一、宇宙船への搭乗は機械で管理されている。書類を偽造しても入れるはずがないのだ。

すぐに11人はお互いを疑うことをやめ、これは旅行会社の手配ミスか、あるいは11人のために2台の宇宙船を用意する経費と手間をケチったのであろうと結論づけた。
部屋はもともと予備として1部屋余分にあったため、全員が1人部屋を使えたし、食糧や衣類などは11人で分け合えば問題なさそうだった。

事前の説明で、もし何か不測の事態――スクランブルが発生したら、非常ボタンを押すように言われていた。10人乗りのはずの宇宙船に11人乗っているのは、まさにそんな非常事態ではあったが、非常ボタンを押すことには全員が反対した。非常ボタンを押せば、「スペース・ウォーク11号」は最悪自動操縦で地球に戻ってしまう。同じ旅行をもう1度頼むには、また休みの調整をしなくてはいけなくなるし、何より集まった11人は自然とすぐに打ち解けていた。このメンバーでまた同じ旅行するのは不可能だろうから、1人多かったくらいで旅行が中止になるのは勿体なく思えたのだ。

次のスクランブルはすぐに発生した。
この事態を一応旅行会社に伝えておくべきだろうという話が出て、出発から3日後、通信機器を使ってみることになったのだが、何度通信を試みても、雑音を拾うばかりで交信ができない。備え付けの通信機器だったので、取り外して修理するわけにもいかず、この旅行を終えるまでは、外部と連絡が取れないことが確定した。

「本当に、サバイバルのようだ」
ソラ――11人は初日から、お互いにコードネームをつけて呼び合っていた――はそんなイレギュラーを聞いても、快活に笑い飛ばした。彼はよく喋り、よく笑い、よく食べた。新人ながら成績優秀な営業マンという話も頷ける。自然と人を引き付ける好青年だった。

「1人多い上に連絡も取れないなんて。こんな経験、なかなかないぞ。もちろん旅行会社にはきっちりクレームを入れるが、話のネタとしては面白い」
皮肉屋のリクも、よくそんなことを口にして、手帳に日記のようなものをつけていた。帰ったら、所属している劇団の仲間に自慢するのだそうだ。次の芝居のネタにもなると言っていた。

この段階になっても、11人は実に楽観的であった。
調理師専門学校に通うウミが手掛けた美味しい料理を食べながら、地球上のあらゆる国を旅しているクモの話に耳を傾けるのは心地よかった。宇宙しか描かないと言い張っていたダイチが、こっそり皆の顔のデッサンをしていたことに笑い、アメのつくったでたらめで陽気な唄を大声で合唱するのも楽しかった。この11人で過ごす毎日があまりに充実していて、1人多いなんてことも、通信機器が使えないことも、些末なことに思えたのだ。

3つ目のスクランブルに気付いたのは、博識なカゼだった。彼は宇宙航空学を学んでいる大学院生だそうで、毎日熱心に観測をしていた。観測の結果、当初の予定とは宇宙船の軌道がずれていると気付いたのだ。
それを聞いた宇宙船オタクのタイヨウは、早速自動操縦になっているコックピットを調べてくれた。通信機器の不調の影響で微調整が効かず、軌道がずれたようだということだった。

ここに来てようやく、皆は不安を感じ始めた。皆の前では「なんとかなるって!」と言っていたナミですら、時折ふっと表情が暗くなったし、一人でトレーニングルームにこもることが増えた。
毎日お互いの好きな本について語り合っていたユキも、徐々に元気がなくなってきた。日本文学が好きなユキと、SFをこよなく愛する僕は、初日に竹取物語が最古のSFであることについての話題で盛り上がり、意気投合していた。けれど二人とも、このSF的展開を純粋に楽しむことはできそうになかった。

カゼとタイヨウのおかげで、この宇宙船は予定通りの観光はおろか、残念ながら地球に戻ることすらできないことが判明するのに時間はかからなかった。
さすがにもう、非常ボタンを押すことにためらいはなかった。この時点で既に半月ほど経っていた。11人はもう十年来の付き合いがある友人のような仲になっていた。地球に戻っても絶対に連絡を取り合おう、またこのメンバーで予定を合わせて再会しよう、と約束を交わし、全員でコックピット内の非常ボタンの前に集まった。
代表して、ソラがボタンを押す。
チカチカと非常灯が点滅し、非常ボタンの上に据えられたディスプレイには、「非常事態発生」という文字が現れる。その下に次々と、プログラム名らしき英数字が踊った。読み取れるのは「ERROR」という嫌な言葉だけだ。

しばらく英数字と「ERROR」を交互に表示し続けたのち、ようやく現れた日本語は、「非常事態応急対応11」だった。

「11? 11ってなんだ。その前の1から10は何だったんだ?」
アメが首をひねる。
「事前にデータで送られてたよ。ええと……1が地球本部への連絡、2が自動操縦による地球帰還……あれ、おかしいな。10までしか載ってない」
タブレットでデータを確認しながら、クモも困惑した表情を浮かべた。
「ねえ、これは……」
控え目に、一番奥で静かに見守っていたユキが声を上げる。ユキが指差すのは、それまでただの壁だった場所――どうも非常ボタンに呼応して自動的に扉のように開き、収納スペースが現れたのだ。
「瓶が……10本。何が入っているの?」
興味深そうに手を伸ばしたナミは、しかしすぐにさっと顔色を変えた。落としそうになったところをリクが慌ててキャッチし、そしてアメも瓶のラベルを見て目を見開く。
「……毒だ」
その言葉自身が毒であったかのように、しんと静まり返った。
それまでタブレットを見ていたクモが、静寂を無理やり引き裂いて、苦しげに告げる。
「非常事態の対応として、書かれているのは10個だけだ。その中には、手動運転で地球に戻ることや、近くの星に不時着することも含まれている。……その10個が、全部ダメだったんだろう。11番目はおそらく、本当の最終手段だ。表向きには載せられないような。だから、その……」
「つまり、苦しまないうちに死ねと」
ダイチが言いにくい部分を引き継いだ。

「スペース・ウォーク11号」が、ただの棺となった瞬間だった。


それからは、正直なところ、記憶が薄い。
すごいことが起こってしまったと、頭ではわかっているつもりなのだが、不思議と現実味はなかった。11人は暗黙のうちに、なるべくそれまでと同じように過ごしていた。何か手立てはないかと船内の設備や道具を探す人もいたが、大した収穫は得られなかった。ウミは意識して食糧を節約してくれたが、それでも食糧庫の中は日に日に寂しくなっていった。

僕はなるべくユキと共に過ごすようにしていた。宇宙でお気に入りのSF小説を読むことが夢だったが、それはもう叶った。平凡で何の取り柄もない僕には、他に思い残すことと言えばユキのことしかなかった。

非常ボタンを押してから更に1ヶ月が経ち、ソラから全員集まって欲しいという呼びかけがあったとき、全員がその意図を理解していた。

「本当に楽しい旅だった。こんなに楽しい経験は人生で初めてだった。皆もそうであることを願う。……率直に言おう、食糧がもう足りない」
ソラはいつものように笑顔で、そう言った。
「燃料と酸素も、残り僅かだ」
タイヨウが付け加えた。最後まで、何か方法はないかと探してくれていた彼だったが、今は実にあっけらかんとした表情をして続ける。
「食糧がなくて飢えるか、燃料が足りなくなって墜落するか、あるいは呼吸ができなくなるか……何が先にやってくるかはわからないけれど、でも俺達は確実に、死ぬ」
そして例のごとく、ダイチが一番言いにくい部分をこともなげに言い放った。
「苦しまずに死ぬなら、毒を飲むしかない。毒は、10人分だ」

毒の瓶は10本だった。僕たちは11人いた。

もしかしたら10本を11人で等分すれば、致死量に足りるかもしれない。しかしそれでは最悪、11人全員が苦しみながらも死ねない状態になるかもしれない。
もはや死ぬことは仕方ないとは言え、自分1人が孤独の中苦しみながら死ぬことを進んで請け負う者はいなかった。

「俺は、くじ引きを提案したい。本当は誰にも苦しんで欲しくないし、俺だって苦しみたくないけれど、仕方ない。誰が毒を飲んで死ぬか、決めよう」

リクの発案が残酷なことは承知で、しかし誰も反対しなかった。その展開を読んでいたのか、ウミは食糧庫からチューブ型のスープを持ってきた。それが最後のメニューらしい。毒を入れやすく、そして見分けがつかない。

毒の入った10杯のスープと、たった1杯の普通のスープ。

全員が1杯ずつ受け取り、いつものように「おやすみ」と挨拶をして、スープを手にそれぞれの部屋へ帰って行った。それが永遠の別れであることをあえて誰も口に出さず、しかし互いに固い握手を交わして、11人は別れた。


僕が次の日に目を覚ましたとき、聞こえてきたのは泣き叫ぶ声だけだった。いつもの明るい騒がしさはない。嫌だ、嫌だという悲痛な叫びがただ響く。

泣き声はドアの前からするらしかった。声は、ユキのものだ。時計は日本時間で午前11時。毒を飲んでいれば、既に死んでいるはずの時間。

彼女は、死ななかった。

当たりを引いたのだ。

鍵を開けてドアをスライドさせると、泣きわめいていた声がやみ、しゃがみこんだユキの姿が現れた。
「え……?」
呆気にとられたような表情を浮かべるユキから、聞かれる前に、答える。
「飲んでいなかったんだ」
スープのチューブを見せて、思わず涙も止まったユキに差し出した。
「君が飲め」
彼女は答えない。状況が理解できていないのか、口を開けてただ僕を見上げる。
「君が飲め。君の分が毒薬でなかったのだから、僕のこれは毒薬に間違いない。これで確実に死ねる」
「でも、でもそれだとあなたが」
「僕はいいんだ」
決めていた。もし、万が一ユキが当たりを引いてしまったら――
「まさか、最初から――」
止まっていた涙が、また湧きあがるようにポロポロと彼女の双眸からこぼれ落ちる。
僕は大馬鹿者だと思う。決意が揺らがないように、僕は彼女へきちんと理由を告げる。

「――愛しているから」

弱々しく抵抗する彼女を押さえつけ、その口にチューブを差し込んだ。泣きながら、彼女は少しずつ最後のスープを飲んだ。
飲み終わった後も、僕達2人は一緒にくだらない話をした。地球での生活のこと、他の9人の仲間のこと、それから、2人に待ち受けていたかもしれない未来について。
涙は止まらなかったが、時折見せるユキの笑顔は、相変わらず控え目で大人しくて、けれどこの世で一番愛くるしかった。

4時間経ったところで、彼女の呂律が怪しくなってきた。意識も朦朧としてきたようだ。それでも懸命に抗って、最後まで僕に話しかけようとしてくれていた。

「ありがとう、ツキ」

その言葉が、彼女の最後の言葉になった。

宇宙船は静かになった。
ここには11人いた。にぎやかだった。

ここから先は、死にたくても死ねない、辛い時間がただ流れるのだ。餓死か墜落死か窒息死か……わからないけれど、絶対に楽には死ねないということしか確実ではないこの状況で、僕はたった1人になってしまった。ユキの動かなくなった身体は、ベッドに横たえておいた。他の9人の姿も確認した。皆、穏やかな表情を浮かべて、眠るように死んでいた。

心の底から、良かったと思う。
こんな孤独、彼女に与えてしまわなくて、本当に良かったと。

静まり返った「スペース・ウォーク11号」が、10人の死体と1人の生き残りを乗せて、宇宙を行く。

ここには、11人いた。
11人、いたんだ。

END

助かる見込みのない状況で、むごい死に方よりも毒を飲んで死ぬことを決意したが、その毒が1人分足りない。くじで生き残ることが決まってしまった女のために、男は自分の毒を彼女に飲ませて殺した。彼女を愛するがゆえに。

「何の変哲もない小説」「72ブックマーク」

[とかげ] 2015年04月27日22時50分
白みのないストーリーで、どこにでもいるような魅力の薄い登場人物が、普段誰もが過ごしているような日常を送るだけの、無名の小説家による小説。
そんな何の変哲もない小説が、何の変哲もないために売れまくっているという。

どういうことだろう?


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の小説を呼んで、男は驚いた。
ごく普通の夫婦が、平凡な日常を過ごすだけの小説だった。
出てくる登場人物は、見た目も性格も思想もごく普通の人達で、魅力的でもなんでもない。
夫婦の暮す家は一般的なアパートで、置いてある家具や家電の描写は、当たり前過ぎて何の面白みもないものだった。
朝夫が出勤して、しばらくすると妻も仕事に出かけ、二人はそれぞれの職場でありきたりな仕事をこなし、どうってことはない友人達とのくだらない会話を交わし、家に帰ってからどこでも食べられそうな夕食をたいらげ、ベーシックなデザインのパジャマを着て、平均的な時間に就寝する。

男は、恐怖すら感じた。


これは……なぜ、こんなに、何の変哲もないのだ。

まるで自分の一日を書かれているかのような――


改めて、本の後ろに書いてある出版年月日を確認する。
何度見ても、男が持つその本は、今から100年以上前に書かれたSF小説だということに、変わりはなかった。

END

100年以上前に書かれたSF小説が、何の変哲もないと感じるくらい今の生活を見事に言い当てていたため、未来を予言した書として有名になり、売れまくった。

「電気ウミガメのスープ」「71ブックマーク」

[とかげ] 2014年10月01日23時21分
去の皆さん、初めまして! 突然で申し訳ないのですが、実は僕、皆さんにとっての未来人です。
皆さんに頼みがあって、時空を超えて過去のラテシンにアクセスしています。

僕の時代――未来にも、ラテシンがあります。僕も皆さん同様、日々水平思考を楽しんでいる、ラテシンユーザーです。ちなみに僕のユーザーネームは「かなへび」です。
今日もいつものようにラテシンを楽しもうと、サイトにアクセスしたところ、ある登録者から、1対1での勝負を持ちかけられました。
本当は僕一人で楽しむべきだと思うのですが、ちょっと気がかりなことがあって……
ぜひ、皆さんにも一緒に質問を考えて欲しいんです!

出題された問題を、下に書いておきます。
ご協力、よろしくお願いします!

***********************************

『電気ウミガメのスープ』
ある男が、とある海の見えるレストランで「電気ウミガメのスープ」を注文しました。
しかし、彼はその「電気ウミガメのスープ」を一口飲んだところで止め、シェフを呼びました。
「すみません。これは本当に電気ウミガメのスープですか?」
「はい… 電気ウミガメのスープに間違いございません」
男は勘定を済ませ、帰宅した後、自殺しました。
何故でしょう?

***********************************

*注意
・これは亀夫君問題です。質問には未来人「かなへび」視点で答えます。
・未来のラテシンで『電気ウミガメのスープ』の問題に質問をしたいときは、質問の前に「★」をつけてください。「かなへび」が代わりに質問をします。返答は「☆」をつけます。

例:
質問:「カニバリますか?」→回答:「えっ? 僕はカニバリませんよ!」(未来人「かなへび」視点の回答)
質問:「★カニバリますか?」→回答:「☆NO」(未来人「かなへび」が未来のラテシンで代わりに質問をした結果の返答)


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来のラテシンで、僕はついに正解にたどり着いた。過去のラテシンユーザーの皆さんのおかげだ。彼らの水平思考には、本当に頭が上がらない。……エラーに巻かれながら、何度目かの更新ボタンを押したとき、目の前には、嬉しい文字が表示されていた。

「YES 謎はすべて解けた!」


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『電気ウミガメのスープ』 解説

電気ウミガメは、ウミガメを模してつくられた人造のウミガメである。
電気ウミガメのスープを、「食べたことのある味だ」と感じ、男は不思議に思う。電気ウミガメを食べるのは初めてだったのだ。ましてや、本物のウミガメは既に保護動物となり、食べる機会などない。
本当に電気ウミガメのスープであることを確かめた男は、自分の味覚は経験とは関係なく記憶されているのだという結論に至る。それは、自分の味覚の記憶が、「造られたもの」であることを示す。
男は、自分を人間だと思い込んでいるアンドロイドだったのだ。
自分が人間ではなく、造り物のアンドロイドであることを理解し、男は絶望する。
突き付けられた現実に耐え切れず、男は自殺した。
アンドロイドである男が取ったその行動は、皮肉なことに、非常に人間的であった……。

END

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やもり:かなへび君、FAおめでとう! 俺の完敗だわ!
かなへび:出題ありがとうございました。スープごちそうさまでした!
やもり:なんかたまに変な質問してたねw 何だよ野生化したルンバってwww
かなへび:すみませんw ところで、良質もヒントもなかったのは、難易度を上げるためですか?
やもり:ああ、意地悪してごめんよ。なるべく君の発言をたくさん引き出したくてさ。
かなへび:……僕が、アンドロイドかどうか、チェックするためですか?
やもり:……。
かなへび:それで、僕は人間だと納得してもらえましたか?
やもり:すごいな、そこまでお見通しとは。文句なしにかなへび君は人間だよ。
かなへび:やもりさんは、政府の人なんですか?
やもり:いや、俺はただ頼まれているだけ。俺も1対1の勝負持ちかけられて、FAしたら、ラテシン内でアンドロイドを探す仕事を頼みたいって言われたんだ。
かなへび:やもりさんもアンドロイドかどうかチェックされたってことですか?
やもり:そ。ほら、最近新規登録者が多かっただろう? あれって、人間の振りをして生活しているアンドロイドを捕まえるために、政府が送り込んだ人間なんだってさ。ラテシンだけじゃなくて、似たような会話型推理ゲームのサイトに入り込んで、人間だと判断できたヤツを更に雇って、捕獲役を増やしてたみたい。
かなへび:やもりさんみたいに、もともとそのサイトを利用してた人を捕獲役にしたってことですね。
やもり:最初に政府が用意した役人達っつーのが、どうも固くって、チェックがうまく進まなかったんだと。だからネット上でうまくアンドロイドチェックができそうなヤツに声をかけていったらしい。こういう会話ゲームがうまいヤツに、普段使っていないサイトにも登録させて……だから、やたらノリの良い新人さんは、多分こういうヤツらだよ。
かなへび:なるほど…。では、ここ最近いなくなったユーザー達は、アンドロイドだったんですか?
やもり:多分ね。 俺みたいな捕獲役に1対1を持ちかけられて、返答が人間っぽくないってことで、アンドロイド疑惑→自宅に突入して確認、って感じだと思う。
かなへび:……。そんなに、人間の振りをして過ごしているアンドロイドが多いんですか?
やもり:結構いるみたいだなー。『電気ウミガメのスープ』の男みたく、そのうち自分が人間だと信じ込んでるアンドロイドが登場しても不思議じゃないし。
かなへび:あ、ちょっと気になってたんですが、その問題って使いまわしなんですか?
やもり:うん、マイナーチェンジはしてるけど、基本は「ある理由で自分がアンドロイドであることに気づいた男」が登場する形になってる。アンドロイド達は、自分がアンドロイドであることをよーくわかってるからな。その固定観念を打ち破るのは難しいだろうってことでね。
かなへび:色々考えられてるんですね……でも、やもりさん。僕にこんなに話して良いのですか? 僕が本当はアンドロイドで、うまくやもりさんのテストを切り抜けてしまっただけかもしれませんよ?
やもり:それはそれで、構わないじゃないか。
かなへび:え? 何故です?
やもり:だって、人間と区別がつかないなら……もうそいつは人間ってことでいいじゃないか。
かなへび:……え?
やもり:人間とアンドロイド、見た目だけじゃもう区別がつかない。中身まで区別がつかなくなったら……何が人間とアンドロイドの境界線になるんだ? 「人間」とは一体何だ?
かなへび:……。
やもり:だからいいんだよ。
やもりアンドロイドが、電気ウミガメの夢を見たって、構わないだろう?
かなへび:……最後にひとつだけ。やもりさんは……人間ですか? アンドロイドですか?
やもり:YESNO
やもり:なんてな。

***********************************


NORMAL END 『電気ウミガメのスープ』の正解にたどり着いた「かなへび」。そのおかげかどうかは知らないが、噂のようにラテシンから消えたり、ましてや殺されるなんてことはなかった。「やもり」からの問題は一体何だったのだろう? そんな疑問も、日々の生活の中、薄れていった。


★TRUE END 「かなへび」は、出題者「やもり」が、自分がアンドロイドかどうかをチェックするために『電気ウミガメのスープ』の問題を利用した、ということに気づく。『電気ウミガメのスープ』の正解にもたどり着き、「やもり」の真意にも気付いた「かなへび」は、アンドロイドと人間の違いを考えさせられることになる。変わったことと言えば、時折電気ウミガメの夢を見るようになったこと、だろうか……。